2011/09/23

破壊的代入と名前束縛は混ぜるな危険

みなさんこんにちは、@tomoodaです。 おかげさまでこのブログも前3記事へのページビューが1/2Kを越えました。 思った以上に読んでもらえて、嬉しいかぎりです。

さて、今回のテーマは、手続き型ベースのプログラミング言語での「代入」についてクッチャベります。ツ

変数という概念を数学で学んだ時には、「代入」とは、書き換えでした。 例えば、f(x) = a * x + bという式があった時、a=2, b = 3を「代入」すると、それぞれ前記の式の中の全てのaを2、bを3に「書き換え」て、f(x) = 2 * x + 3、としていましたね。

しかし、プログラミング言語、特に手続き型ベースのプログラミング言語では、代入は2種類あります。 それが破壊的代入と名前束縛です。

破壊的代入とは、ありていに言えば、代入文です。 f(x) = a * x + bについてaに2, bに3を代入して計算を進めていきながら、ある所でaやbに別の値を代入したりします。 同じ式f(0)を計算しても、aに2, bに3が代入された時の値と、aもbも0が代入された時とでは、f(0)の値が違ってしまいます。 そんなこともあって、いわゆる関数型言語など、破壊的代入は悪だとするプログラミングの流儀もあります。

数学でも同じ変数に何度も代入することがあります。1つは、関数適用です。 f(4)を計算した後でf(5)を計算することは、よくありますね。 xに代入する値を変えているわけです。 では、これは破壊的代入でしょうか?そんなことはありませんね。 xに4を代入した結果を計算している途中で更にxに5を代入し直すわけではありません。 xに4を代入するのとは別に、元の式に対して、xに5を代入しているわけです。 1つのコンテキストの中で書き換えるのではなく、別々のコンテキストの中で書き換えています。 これは名前束縛で、xという変数を4に束縛する、5に束縛する、と言います。

では、破壊的代入は悪なのでしょうか?撲滅すべき存在でしょうか? 薬の副作用と同じ意味で、破壊的代入を副作用の1つと見做して撲滅すべきだという主張もあります。 そう思う人達の言い分はもっともだし、撲滅したらしたでメリットはあるでしょう。 実際、オレも関数型言語は大好きです。 それでも、オレ的には撲滅すべきだと断ずるつもりは毛頭ありません。ツ

完全に副作用のない世界を追求するのも大事ですが、それ以上に、副作用の「実害を減らす」ことが大事だと思っているのですよ。

では、実害を減らすにはどうしましょうか? それにはまず、「対象を認識する」ことです。 そう、オブジェクト指向って何?で挙げた、一番大事なことです。 この場合、「対象を認識する」とは、破壊的代入と名前束縛をきちんと区別することです。 もう少し言えば、手続きの中で本質的に破壊的代入としてきちんと表現したい「代入」と、一時的に名前をつけておくために「代入」している本来「名前束縛」であるものを、表現としてきちんと書き分け、読み分ける、ということです。

そこで、手続き型ベースのオブジェクト指向言語のSmalltalkでやってみましょう。ツ 処理系としてはPharoを使います。 やることは簡単、2つのメソッドを追加するだけです。

まずは、Objectクラスに以下のメソッドを定義します。

=>> aBlock
    ^ aBlock value: self
さらに、Arrayクラスに
=>=> aBlock
    ^ aBlock valueWithArguments: self
も定義してみましょう。 たったこれだけで、破壊的代入と名前束縛を分離して、コードの見通しがスッキリします。

例えば、ネットワークプロトコルの単体テストのsetUpを書いてみます。 単体テストの対象はMyProtocolクラスで、単体テストをMyProtocolTestクラスに記述します。 MyProtocolTestクラスにはインスタンス変数としてpeer1, peer2が宣言されているとします。 また、テスト用にTCPコネクションの両端をシミュレートするクラスMyTestTCPConnectionがあるとします。

まずは、使用前。

setUp
    | connection stream |
    connection := MyTestTCPConnection new
    stream := connection stream1.
    peer1 := MyProtocol on: stream.
    stream := connection stream2.
    peer2 := MyProtocol on: stream.

では、使用後。

setUp
    MyTestTCPConnection new
        =>> [ :connection | 
            connection stream1
                =>> [ :stream1 |
                    peer1 := MyProtocol on: stream1 ].
            connection stream2
                =>> [ :stream2 |
                    peer2 := MyProtocol on: stream2 ] ]
さらに、こんな書き方も。
setUp
    MyTestTCPConnection new
        =>> [ :connection | 
            {(connection stream1).
            (connection stream2)}
                =>=> [ :stream1 :stream2 |
                    peer1 := MyProtocol on: stream1.
                    peer2 := MyProtocol on: stream2 ] ]

どうでしょう? 名前束縛のシンボル「=>>」と「=>=>」と、代入のシンボル「 :=」を区別すると、こんなにプログラムの構造が整理されます。

元々Pharoには=>>と全く同じ働きをするin:メッセージがありましたが、ビジュアルな効果を期待して、あえてシンボルで定義してみました。 プログラムの構造、名前束縛という「対象を認識する」ということを大事にする、それがオブジェクト指向プログラミングなのです。ツ

たった4行のプログラミングであたかも言語仕様が拡張されたかのような、視覚/意味/スタイルへの影響を誘導できる。 Smalltalkって本当に面白いですね! ツ

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